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2020/05/17

続き、「批判」という語の由来


日本語が系統不明、つまりどこで生まれてどのような経過をたどってきたかが定かでない言語であることはご存知だろうか。もちろん様々な研究がされてきたが、未だどの地域由来で、どの言語と関わりがあるのか明らかでない。

これに対して、現在まで使われている言語の中でもインド・ヨーロッパ語族と呼ばれるグループに属する言語は、祖語が分かっているようだ。共通の「祖先」というべきものを持つそれらの中には、英語をはじめとしてドイツ語、ロシア語、ヒンディー語などがある。これらは親戚のようなもので、文法や単語が共通しているようである。こういう事情があるから、ある言葉、語の由来を調べるとその語がもつ根幹のような意味を知れる場合がある。私は今回英語から語源を調べてみたい。現在最も広く使われており、インターネットをはじめとしたあらゆる媒体で質・量ともに情報豊富な言語は英語であろう。

Online Etymology Dictionaryというサイトがあり、英語の単語の由来を調べることができる。critical(批判的な)など、派生した語ではなく、基本的な形のcriticの項目を見てみる。(批評家などという意。)

formerly critick, 1580s, "one who passes judgment, person skilled in judging merit in some particular class of things," from Middle French critique (14c.), from Latin criticus "a judge, literary critic," from Greek kritikos "able to make judgments," from krinein "to separate, decide" (from PIE root *krei- "to sieve," thus "discriminate, distinguish"). The meaning "one who judges merits of books, plays, etc." is from c. 1600. The English word always has had overtones of "censurer, faultfinder, one who judges severely."
(番号は筆者による)

これを訳すと、
①古くはcritick1580年代〔英語に限って〕、中世フランス語critique14世紀)で、「判断を下す人、ある特定の種類のものの価値を判断する能力をもつ人」、②ラテン語で「裁判官、文学評論家」、③ギリシャ語kritikosで「判断することができる」、④krineinで「離す・区切る、決める・判断する」(インド・ヨーロッパ祖語の語根(語幹)”krei-“「ふるい分ける」そして「差別・区別・識別する、区別・識別する」)。⑤「本や演劇その他の価値を判断する人」という意味は16世紀から。⑥英語の単語は「非難する人、とがめる人、厳しく・痛烈に判断をする人」という含み・ニュアンスをいつも持ってきている・持ち続けている。

というような感じだろうか。(あまり自信はない。)
〔注:〔〕は筆者による注記、また、,を、に変えており、・は筆者が訳語を並列させたいときに使っている。〕

時系列でいえば、④の印欧祖語の箇所がもっとも古いと思われる。「批判」の原義が「区別すること」であることは間違いないのだ。前回出てきたカントや、他の哲学的用法はこの意味で使っていると思われる。①のフランス語の部分など他の用法を見ても、「非難」と似たようなネガティブな意味で使われているようには決して見えない。

しかし、注目すべきは⑥の部分だ。現在英語では多くの場合criticに「非難する人」というニュアンスが含まれているというのだ。これは一体どういうことだろう。私の推測では、英語が比較的新しい言語であることが関わっていると思うが、断言はできない。次回の文章も合わせて考えていただければ幸いだ。

今回も、あまりに長すぎると敬遠されるので、ここらへんで「区切らせて」いただく。これは長くなりすぎるのを避けるためであって、TVでみられる「必ずいいところで入るCMのようなもの」ではないことを述べておきたい。


次、
Online Etymology Dictionary “critic” https://www.etymonline.com/word/critic#etymonline_v_366

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