ガリレオは、ピサの斜塔で重いものほど早く落下するわけではないことを示した。ニュートンはリンゴが木から落ちるのはなぜかを説明した。(もっとも、2つの逸話の実在は不明だが。)アインシュタインは「ニュートン力学」の限界を乗り越えてみせた。ピケティは経済的格差が拡がり続けていることを数値を用いて明確に示してみせた。そして今、「送りバントは敗退行為である」ことが示されている。頼むからバントをやめてほしい。
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「バントは得点期待値を下げる」という発見
以下の記事を読んでほしい。いや、もはや読まなくてもいい。要約すれば、バントは得点期待値も、得点確率も下げる作戦であり、積極的に取られるべき作戦ではないといったところだろうか。
実は手堅くない送りバント 「損益分岐点」は打率1割:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54338470T10C20A1000000/
これはこの記事の執筆者の独自説ではない。
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column_archive.aspx?type=tag&word=%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%88
おそらく会員登録をしていないと読めないと思うが、このリンクは、野球を統計などを利用して分析する「セイバーメトリクス」に基づいたデータを公開するサイト内の、バントについてのコラムの一覧である。実に細かく、NPBにおけるバントを分析しているように見える。バントが効果的な場面は非常に限られており、現状バントはあまり効果的に使われていないようだ。
いずれの記事からも、バントのむやみな多用は得点機会を失うことになるということが言えるだろう。
これらを踏まえた上で私は何が言いたいか。「バントの多用は敗退行為だからやめてほしい。」これだけである。「点を多くとった方が勝ち」という野球のルールに、バントはそぐわない。
ところが現状はどうか。バントを多用した佐々岡カープは、リーグ屈指の攻撃力を有しながら(画像参照)、得点数では試合数が同等の2チームの後塵を拝し、最下位に沈んでいる。もちろん不振の理由はむしろ投手陣にありそうだし、バントが左右する得点は微々たるものだと私も思っている。それでもバントについて物申したいのは、バントの多用に、NPB全体の保守的な姿勢、首脳陣の怠慢が現れていると考えているからである。
怠慢とはどういうこと?
もしもの話をする。現在木製バットは、主にアオダモやメープルという木で作られている。仮に研究による新発見があり、「スギの木でバットを作ると飛距離が1.2倍になる」ことが明らかになったとしよう。ところがバットメーカーは一向にスギの木を採用しない。依然としてアオダモやメープルを使い続けている。この新発見を知った選手が「スギバット」を作ってくれと要望するが、メーカーはそんな新発見を知らないようである。また、アオダモやメープルを使った方が今までのノウハウを活かせるし他に文句も出てないからと言ってスギを全く採用する様子がない。結局は今の方が楽だから「スギバット」を採用しない。
こんなことがあったら、きっと選手や現場の首脳陣たちは激怒するだろう。「スギバットを使えないせいで、俺たちは得点機会を失っている!」「バットの専門家のくせにこの程度の新発見を知らないなんて怠慢だ!」と。
「スギバット」を「バントは敗退行為」に置き換えれば、NPBの首脳陣が専門家でありながら野球の作戦に関していかに怠惰な態度をとっているか分かるだろう。「バントを多用するせいで得点機会が失われている」「野球の専門家のくせにこの程度を知らないなんて」。「バントは敗退行為」は言い過ぎとしても、少なくとも「その日HRを打っている選手にバントさせないほうがいい」ぐらいは言ったほうがいい。
広島今季6度目の1点差負け…佐々岡“迷采配”で好機生かせず
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/276749
(ゲンダイに言われたら終わりだと思う)
首脳陣にチームの全権が与えられるのは、首脳陣の野球に関する専門性が評価されているからだ。ならば、自分の専門についてもう少し勉強するべきではないのか?
バントは「批判よけ」ではない
野球における作戦には盗塁やヒットエンドラン、送りバント、スクイズ、バスターなど、細かく言えばたくさんある。しかし、そのいずれも、「首脳陣が批判を逃れるための手段」ではない。「やってる感」とでも言おうか、バントをしておけば何かをやっているように見えるだろう。「無策だ」という批判を避けることができる。しかし、作戦は、批判よけの道具ではない。点を多く取るための手段である。手堅い(と思われている)バントさえしておけば首脳陣としての責任を果たせる、というような保身的な姿勢を改めるべきだ。
NPBは遅れている
近年、「マネーボール」に代表される、野球をデータ化する動き、投球や打球のトラッキング、セイバーメトリクスという手法など、「野球の定量化」が進められてきている。勘や感覚、印象としてしか捉えられなかったものがどんどん数値化されてきているのだ。
「巨人の肩の上に立つ」というたとえがある。ニュートンが使ったことで有名だが、先人の発見や研究の積み重ねによって、より高度な発見をすることができるというようなたとえだ。「巨人の肩」の上で野球をして何が悪い。いや、その競技における国内のトップリーグの首脳陣なら、むしろ巨人の肩に積極的に乗るべきだ。MLBはそうやって世界一のリーグであり続けている。リーグやチーム、その首脳陣が全体としてセイバーメトリクスなどを利用している。(南米系の選手の流入など選手人口が多くてかつ多様であるなど、もちろん要因はそれだけではない。)強くなるためになんでも使わなければ、NPBはMLBにどんどん置いていかれてしまう。MLBが巨人の肩の上で野球をしているとすれば、NPBは巨人の足元にいることになってしまう。
まとめ
先人たちは、自らの勝利機会を犠牲にして、バントの有効性を信じて、ボールを目の前の数メートルに何球も何球も転がしてきた。数え切れないほどの得点機会を、しかもそれを公式戦において、犠牲にしながら、「バントの有効性」を検証する壮大な「実験」は終わった。終わりにすべきだ。結果バントは有効ではなかったと分かったのだから、それでもバントを多用するなら、それは犠牲を払ってきた先人たちに失礼だ。今すぐバントをやめてほしい。
私は、送りバントという作戦を考え出し、実行した人たちをバカにしたりはしない。(あくまで当時の)新戦術を取り入れる姿勢に、むしろ尊敬の念を抱く。MLBやNPBで、首脳陣や選手たちが知恵を絞って、なんとか効率よく得点できないかと考えてきた営みは非常に尊いものだ。むしろ、今のNPBこそ、このような姿勢に学ぶべきだと思う。1点でも多くとろうと考え、努力する。方法としては、「野球の定量化」を積極的に取り入れてプレーや作戦のレベルを向上させようとする。謙虚に取り組まなければ進歩できない。「バントを発明」した偉大な先人の姿勢に学び、「バントをやめる」という英断が下されることを願う。
画像の出典について(いずれも8月25日終了時データ)
https://1point02.jp/op/gnav/leaders/tm/tbs_advanced.aspx?sn=2020&lg=0&tm=0&ps=0&sl=1&sr=0&pn=0
また、参考として以下(コメント欄まで見てほしい)
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